南澤まお(みなみさわ まお / クレイジーボックス所属)
■ インタビュー
── 80 歳の主人公サラにキャスティングされた時の気持ちを聞かせてください。
南澤:初主役が 80 才ということに本当に驚きましたが、それ以上になんて有難いんだという喜びと感謝で一杯になりました。
同時に、彼女の一生を共に歩まなければという使命感がふつふつと湧き上がってきました。これだけ年齢が離れた役を演じさせていただくのは初めてだったので、貴重な機会をいただけたことに心から感謝しています。
この経験を糧とすれば今後の自信に繋がっていくと信じて、大切に演じさせていただきました。
── この作品のテーマをどのように感じましたか?
南澤:「人間の一生」だと感じました。家族の絆と、それも含めた「人間の一生」というテーマがしっくりくるのではないかと思います。
この作品は、サラの孫のユゴー視点からスタートします。彼から見たサラはおばあちゃんだけど、そのサラにも若い頃があって、パートナーと出会い、恋に落ち、愛を育み、家庭を持ち、家を守ってきたという歴史がある。だから「世界が尽きるまで家族の物語は続く」というサラの言葉には、ひとりひとりの人間の一生が繋がっていく先に家族という存在があるんだよという想いが込められていると感じました。
── サラを演じる上でどんなことに気をつけましたか?
南澤:極端に年齢が離れている役を演じる場合は、どうしてもステレオタイプになりがちなので、まずおばあちゃんである前に、長い人生を歩んできた一人の女性であるということをしっかりと噛み締めながら演じようと思いました。
お茶目でチャーミングで、冒険心旺盛なサラという人間像をベースとして捉えられるようになってからは、萎縮することもなく伸び伸びと演じられたように思います。「歳は離れているけど君にはサラと近い部分がある」と演出の方に言っていただけて、自分の持つ感性を信じてマイク前に立ちました。
実は作品の収録をする少し前に、祖母と家族と小旅行をしまして、その時におばあちゃんというものを全身で感じてきたので、それもいいスパイスになったと思っています。おばあちゃん、ありがとう!(笑)
── 若い頃(20 歳)のサラと今のサラ、60 歳差の演じ分けは大変でしたか?
南澤:台本をいただいてすぐの頃は難しく感じた部分もありました。でも、どんな人間も自分のことをおばあさんだ、子供だ、などと思いながら生きているわけではなく、自分は自分だと思って生きていると思うんです。
逆に、他人は人の人生のある瞬間を切り取ってしか見られません。だから、今までの全てを見てきているのは自分自身しかいないわけです。
そう考えたら、いくら 60 歳差があると言えど、サラという人間を表現する本質は変わらないと思えて、心が軽くなった気がします。
むしろ自分が演じるキャラクターのいろんな年代に挑戦させてもらえたことで、一人の人間を表現するためのヒントが増えて、ラッキーだったとも思っています。
── 若いサラは演じてどうでしたか?
南澤:アニメーションになっていたので、感覚としてはディズニーとかに近くて、画面の向こうで子供が見てくれているのを想像して演じるのが楽しかったです。
── 孫のユゴーとの会話が多かったと思いますが、苦労した台詞はありましたか?
南澤:ガレージでの会話のシーンが難しいと感じました。
なかなかいとこと馴染めないユゴーを気にかけ、彼の心を少しずつ解いていくという重要なシーンなので、一連の流れを大切に演じました。たとえばジョークを言って見たり、昔のことを回想して思いを馳せ、ちょっと遠くを見てみたり、かと思ったらまたユゴーの方を見て鼓舞したりと、いろんな要素がぎゅっと凝縮しているシーンでした。
あと、作品の要所要所に散りばめられたスペイン語の台詞も難しかったです。発音が悪いと台無しになってしまうので、リアリティを持たせるために何度も何度も原語を聞いて、調べて、とにかく音をしっかりとトレースするように努めました。
── 作中で、オオカミと若いサラのシーンはアニメーションで描かれていました。オオカミは何を意味すると思われましたか?
南澤:作中に登場するオオカミはお迎え、つまり「死の訪れ」を表していると感じました。
私も調べたのですが、古代神話でオオカミは死の使者だったり、繁殖の象徴だったり、さまざまな価値観で受け止められてきたそうです。若いサラが崖から転落したシーンで初めてオオカミのロングが登場するんですが、おそらく、ここがサラの本来のお迎えの時期だったのではないかと。でも、のちに夫となるフェリクスの懸命の愛とサラの気持ちが重なって、彼女は 80 年の人生を全うすることができたんだと思います。
サラの「わかるのよ、この歳になると、いろんなことが」という台詞があるんですけど、2 回目のお迎えの時のサラは、もう自分なりの決心がついていたんじゃないかと感じています。
── 個性的なキャラクターが何人も登場しますが、特に印象に残ったキャラクターは?
南澤:二人います。四人兄弟の三男ソールと、偏屈酔っぱらい親父のビュイヤールです。
ソールはヘラヘラしてちゃっかりとした性格なんですが、娘のアイシャは縄張り意識や自己主張がすごく強くて、そんな対照的な親子を見ていて面白いと思いました。ソールの一家だけ、奥さんが声でも姿でも登場するシーンがないので、「ママに言いつけてもいいのか」「そんなのひどい」という親子の言い合いのシーンでは、一体奥さんはどういう人なのかと想像が膨らんで楽しかったです。
ビュイヤールについては、この作品を見て印象に残らない人はいないと思います。
登場シーンではしょうもない飲んだくれのおじさんなんですけど、子供と本気で追いかけっこしたり、意外と子供のために真剣になってくれたりもして、最終的にはちょっとかわいいなとも感じとれる人でした。あと、もしかして昔、サラに惚れてたんじゃないかって思わされる台詞もあって、なんだかんだ憎めない酔っぱらいでした。
── 最も心に残ったシーンを教えてください。
南澤:ロングと子供たちが会話する洞窟の中のシーンです。子供たちとサラおばあちゃんが一体となって、お別れまでの時間を実は稼いでいるというところに、家族の心の繋がりとか、サライズムの継承みたいなものを感じました。
リハーサル映像を何度かチェックしていく中で、子供たちと時間稼ぎした直後に、サラがさりげなくウインクしていることに途中で気づきまして、なんていかしたおばあちゃんなんだ、私もこういうふうに年を重ねていきたいなと思いました。
── 今後はどのようなキャラクターに挑戦したいですか?
南澤:脆さや繊細さを内包したキャラクターにも挑戦していきたいと思っています。
今までは比較的強かったり、自信に満ちているキャラクターを演じさせていただくことが多くて、確かにそういうキャラクターは自分でもすごく演じやすいと感じています。でも、たぶんそれは、私自身がそういう人間像に憧れを抱いていることに起因しているんじゃないかと思ってまして…というのも、私の心の中には、意外とビビりだったり、傷つきやすかったり、考えすぎて深みにハマってしまったりする脆い部分があるからです。
だから、これからも役者として何にでも挑戦するというのはもちろんなんですが、自分の恥ずかしい部分とか、本来ならあまり人に見せたくない部分とかをあえてさらけ出していくことにも挑戦していきたいです。その人間臭い人物像で、誰かの心に何かを残せていけたらいいなと、以前よりも考えるようになりました。
── 最後に、この作品をまだ観ていない方々にひと言お願いします。
南澤:個性豊かな人物がたくさん登場する作品です。ぜひ童心にかえって、何気なく図書館で見つけた本を手にとって開くような気持ちで観ていただけたらと思います。
「忘れなければ存在は消えない、価値もなくならないの」。
大切な何かを失った時、みなさんの心にそんな声が届くよう、サラとともに祈っています。
■ マイファミリー おばあちゃんとオオカミのいた夏 (2019年 フランス) 作品データ
■ 監督 アドリア・ガルシア
■ 出演
サラ:カルメン・マウラ
ユゴー:エンゾ・インギグノリ
アルノー:ピエール・ロシュフォール
■ ストーリー
パリに住む 9 歳のユゴーは、田舎町にある父親アルノーの実家でひと夏を過ごすことに。
いとこたちやおばあちゃんのサラと一緒に過ごす夏休み…ところが、オオカミがおばあちゃんを迎えに来ると知った子どもたちは大騒ぎ。
おばあちゃんを助けるため作戦を練り、忘れられない冒険を体験することになる…
■ 日本語吹替版キャスト
サラ 南澤 まお / ユゴー 吉田 友香 / アルノー 犬丸 義貴 / アイシャ 宮坂 まゆ / ロング 近衛 頼忠 /
ビュイヤール 檜山 修之 / レオン 石原 雅人 / ソール 近衛 頼忠 / オルランド 奥田 純 / コーリャ 桜井 春香 /
リビー 林 あゆり / リリー 雪村 真以 / ティナ 青柳 佑 / タティカ 岩元 絵美 / レア 安達 菜都 /
フェリクス 犬丸 義貴 / 幼いアルノー 倉本 華瑠
■ 予告編 ( 英語字幕 )
■ 日本語吹替版配信中!
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