桜井春香(さくらい はるか / AIR AGENCY所属)
■ インタビュー
── ヴィルデにキャスティングされた時の気持ちを聞かせてください。
桜井:本当に嬉しくて、マネージャーに「やりました!」と言ったくらいです。一方で、作品の強いメッセージ性を考えると、作品を観てくださった方たちにきちんと伝え切らなければいけないというプレッシャーがすぐに襲ってきました。
喜びと同時にぐっと気を引き締めた瞬間でした。
── この作品のテーマをどのように感じましたか?
桜井:ひと言で言ってしまうのは良くないかもしれませんが、とにかく重いというのが第一印象でした。
家庭問題、親の自殺、社会制度への疑問、それに薬物を使用するシーンもあったりと、私がノルウェーや北欧に対して抱いていた「おしゃれで幸せな国」というイメージと、かなりギャップがありました。
その分、メッセージ性の強さが際立ったので、問題の根底や取り組みの必要性について考えさせられる、観る方によってとらえ方が変わる作品だと思いました。
── 作中では、日本のサブカルチャーに憧れるヴィルデの視点として、アニメやフィギュアが印象的に扱われていましたが…
桜井:日本のポップカルチャーや日本そのものが主人公の憧れの対象として描かれていたのは、日本人として素直に嬉しかったです。
でも、私と同じように、北欧に対して「おしゃれで幸せな国」という漠然としたイメージを持っている日本人も多いかと思います。この作品で、そんなイメージとのギャップを見せつけられて初めて、深く知らないからこそ安易に憧れを抱いていたんだなという、皮肉めいたことも感じてしまいました。
── 作品の舞台となるノルウェーは、世界幸福度ランキング1位になったこともあります。作品の世界観との違いをどうとらえましたか?
桜井:今回この作品に出演することになって初めて、ノルウェーの児童福祉局について調べたのですが、やはり幸福度が高いイメージがありましたので、家庭への介入の仕方などですごい衝撃を受けました。
「子供を守るための機関」とひと言で言ってしまうと聞こえはいいんですが、本当の意味での子供の幸せとは何なのか、福祉というものの本質は何なのかを考えさせられました。
── ヴィルデを演じる上で気をつけたことを教えてください。
桜井:とにかくまず、思春期特有の脆さ、危うさ、無鉄砲さみたいなものをきちんと表現できるように、自分がその時代どうだったのか思い出すことを第一に考えました。
大人になると、どうしても行動を起こすより先に考えてしまって、無難な選択をしたり妥協したりしてしまいますが、ヴィルデは 15 歳だからこそ移してしまった行動の中で、余裕のなさや、後悔、迷いがすごくあったので、その感情の機微をきちんとリンクして演じられるように考えて臨みました。
それをちゃんと表現できれば、15 歳の少女が置かれたとてつもなく異常な状況が、観ている方にも伝わるのではと。
── 苦労した台詞はありましたか?
桜井:このひと言って決められないですけど、トールモーとホテルに入ってからの一連のシーンがすごく難しくて…。
私自身このように追い詰められた経験がないので、ヴィルデの表情や息遣いから感じる恐怖感、後悔、迷い、そして覚悟といった感情の強さにどうしても及ばなくて…近い感情から演技を重ねていったのですが、とにかく大変でした。
彼女の置かれた環境の過酷さを思い知らされたシーンです。
── 個性的なキャラクターが何人も登場しますが、特に印象に残ったキャラクターは?
桜井:ヴィルデの母のアグネスです。
吹き替えを担当された安達さんとは収録が別だったのですが、完成品を観たら、お母さんの優しさと寂しさがすごく伝わってきて…ヴィルデはそこから目を逸らしてしまった立場だったので、その罪悪感をひと際駆り立てるものがありました。
私も数年前に祖父を亡くしていまして、たまたま亡くなる前日に会いに行こうかと考えたにもかかわらず、結局生きているうちに会えなかったことを今でも後悔していまして…ヴィルデもきっと「あの時こうしていたら良かった」という後悔を、この先どんな人生を送ったとしても抱え続けるだろうなと思うと、彼女の視点でも私の視点でもアグネスは忘れられない人だと思いました。
── 最も心に残ったシーンを教えてください。
桜井:ヴィルデが駅で、生き別れた父親のアイナルと会ったシーンです。
その中でも特に、アグネスが自殺したことを打ち明けたあと、アイナルが無言でヴィルデの手に自分の手を重ねるところがすごく記憶に残っています。演じながら不思議と自分の手にもアイナルの体温が伝わってきたように感じて、ヴィルデのそれまで堪えるようにしていた涙が自然にぶわっと流れたのが自分にも重なって、涙が溢れました。
── 今後はどのようなキャラクターに挑戦したいですか?
桜井:自分のスキル次第で年齢も性別も越えていけるのがこの仕事の魅力のひとつなので、男の子だったりおばあちゃんだったり、人間以外だったり、いろんな生身では演じられない役にチャレンジしていければと思っています。
またこれからも、桜井春香といえばこういう役!と皆さんに思ってもらえるような役に出会うことができたら嬉しいですね。その出会いを逃さないように今後も精進していきます!
── 最後に、この作品をまだ観ていない方々にひと言お願いします。
桜井:まず単純に映像美として、ヴィルデの憧れの対象として描かれる東京は、普段東京で過ごしていると気付けない美しさがあるので、そこはぜひ観てほしいです。
また家庭問題や福祉制度については、遠い国のことのようで実際日本で暮らす私たちにも共通する問題が少なからずあります。
主人公はヴィルデですが、どの人物の視点に立つかで違ったものが見えます。さまざまな視点で観ることで、家族との向き合い方を考え直したり、家族の大切さを改めて感じてもらえるきっかけになればと思います。
この作品でノルウェーの社会問題について初めて知る方も多いはずなので、少しでも多くの方に観てもらえたら嬉しいです。
■ Harajuku 原宿 (2018年 ノルウェー) 作品データ
■ 監督 エイリーク・スヴェンソン
■ 出演
ヴィルデ:イネス・ヘイサーター・アッセルソン
アイナル:ニコライ・クレーヴェ・ブロック
マリアンヌ:イングリッド・オラワ
■ ストーリー
オスロ近郊で母親のアグネスと暮らすヴィルデは、日本のカルチャーに憧れる15歳の少女。クリスマスイブにセントラル駅でいつもの仲間と他愛もない時間を過ごす。
そこへ児童福祉局のマルテとヘルゲがやってきて、アグネスに不幸があったことを聞かされる。
ヴィルデは東京への片道切符で全ての人から逃げようとするが…
■ 日本語吹替版キャスト
ヴィルデ 桜井 春香 / アイナル 近衛 頼忠 / マリアンヌ 岩元 絵美 / トールモー 石原 雅人 / ナタリー 南澤 まお / アグネス 安達 菜都 /
ユッツ 吉田 友香 / マルテ 青柳 佑 / ヘルゲ 奥田 純 / ステファン 長永 ちえり / ブライアン 犬丸 義貴 / トーマス 大城 昂輝 /
カレン 宮坂 まゆ / ミケル 伊藤 健翔 / 館内デスク 幸野 央枝
■ 予告編 ( ノルウェー語字幕 )
■ 日本語吹替版配信中!
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