天野 冱惠(あまの さえ / フリー)
■ インタビュー
── この作品は、兄ピーターに憧れ、慕う弟クレメンの揺れ動く心もようを繊細に描く青春ストーリーです。
主人公クレメンにとって重要なファクターであるピーターにキャスティングされた気持ちを聞かせてください。
天野:どんな役であっても選んでいただけるだけで光栄だと常々考えていますが、今回は、物語の流れを率先して作っていかなければならない役を吹き替えるという立場から、より一層気が引き締まる思いでした。
── ピーターを演じる上でどのような役作りをしましたか?
天野:ピーターくらいの年頃( 17 歳 )は、行動範囲の自由度や万能感が増すような感覚があると思うんです。本人はすごく大人になった気分だけど、中身はまだまだ子供で、青さや危うさでいっぱいという年代。
そういった面をどんどん前に出して行くために、当時の自分を思い起こし、自問自答しながら、ピーターの表情や仕草をひとつひとつ追いかけて役を作り上げました。
── スロヴェニア映画というと私たち日本人にはあまり馴染みがありませんが、映像を通してどんな世界観とテーマを感じましたか?
天野:スロヴェニアというと、まずは豊かな自然に囲まれた国というイメージがあります。
中でも、今作では水に関わるオブジェクトとして川のシーンが度々出てきますが、これは登場人物の人生を表現しているのではないかと。
川の流れは穏やかであったり激流であったりと一定ではなく、さらに上流から下流へ、最後は広大な海へと流れつく…つまり、人は大人になるにつれ、社会という広大な海に出て行く。けれども時には思わぬ深みにはまったり淀んでしまったりして自分を見失い、呼吸ができなくなり、生きるための息継ぎが、それこそ深呼吸が必要になるということの比喩表現に感じました。
主題は兄弟愛ですが、関わる人たちすべてがいろんな葛藤や思いを抱えて生きているということを、美しい川の流れや風景といったシーンを挟みながら、要所要所で見せてくれる人間ドラマになっています。
── 恋人になるソニアはかなり魅力的な女性でした。
彼女との恋愛に夢中になる過程でピーターはクレメンと距離を置こうとします。
特にカヌーのシーンでの「離れなきゃダメなんだ」という言葉にはかなりのインパクトがありましたが、どのような心境の変化を感じましたか?
天野:ピーターの中でよりベクトルが外の世界に向いていった印象があります。
クレメンの兄であり、父親代わりでもあるという存在から一人の人間として巣立っていかなければならない、そしてそれはいずれクレメンにも訪れる出来事だと思うんです。
「離れなきゃダメなんだ」というのはピーターなりの決意表明だったり、弟への人生の先輩としての悟しだったのかなと。ちょっと不器用な伝え方だったとは思いますが(笑)
ソニアは、もちろんピーターの中では恋人であり、対等な立場ではあるんですけど、ダンスの留学を決めたりとか、彼女の先を見据えたプロ意識みたいなものに感化されて、「よし俺も頑張るんだ」と思わせてくれる、本当に女神様のような存在だと思いました。
── ピーターとは逆に、兄離れができないクレメンは話が進むにつれて次第に兄のストーカーのようになってしまいました。
ピーターにとって、弟はどんな存在だと感じましたか?
天野:嫌いではないし、むしろ大好きだけど、鬱陶しくも感じてしまう、ちょっと矛盾した存在だと思いました。
自分のことに集中したいのに、弟はひっついてくるし、母のアルマからは執拗に面倒を見るように強要される。じゃあ、俺の時間は? 存在価値は? 一体どうすれば満足なんだよ? そういったモヤモヤを抱え、つい苛立ちを家族にぶつけてしまうという。
ただ、逆に言えば、それだけ心を許している存在なんだと感じました。
── シングルマザーとして息子たちを愛し育ててきたアルマのこともずいぶん困らせましたね。
「俺はあいつの父親なのか?」というピーターの台詞をどう受け止めましたか?
天野:自分のことを、もっと一人の人間として見てほしいという気持ちが強かったんだと思います。
「俺はクレメンの父親代わりじゃなくて、あなたの息子なんだよ」と伝えたかったのかなと。そういった思いが、あの言葉に内包されていたんじゃないかと思います。
── ピーターとご自身の共通点、および共感できる点があれば教えてください。
天野:不器用なところだったりとか、こう!と決めたら一直線になってしまいがちなところ、悪く言えば頑固なところです(笑)。
あとは、家族が鬱陶しいと感じてしまう時期が自分にもあったかな…と懐かしく思いました。
── 特に印象に残ったキャラクターは?
天野:グレゴルです。出番こそ少ないんですけど、この先のクレメンの人生にとって、本当に重要な存在になっていくだろうなと感じました。
先の物語ではメインになっていく存在だと思います。
── 最も難しかったシーンを教えてください。
天野:意外と思われるかもしれないんですけど、川縁でクレメンと二人、昔話をするシーンですね。
なぜあの場で、あのような昔話をしたのか、本当は何を伝えたかったのか…僕の中では答えは出ていて、その思いを込めて演じました。
どんな思いを込めたかが観てくださった皆様に少しでも伝われば嬉しいです。
── 最も心に残ったシーンを教えてください。
天野:カヌーでの川下り中のピーターとクレメンの口論のシーンです。
ここに至るまで、おそらくお互いに言わんとしていたことはわかっていたんじゃないかと。それをストレートに言えない二人の不器用さが、より関係を拗らせてしまいました。
結果としては、二人とも予想していなかっただろう形で、その先へ踏み出していったのかなと思います。とても心に残るシーンでした。
── 今後はどのようなキャラクターに挑戦したいですか?
天野:自分の中では老け役がまだまだ課題なので、それを克服するためにも果敢に挑んでいけたらいいなと思っています。
── 最後に、この作品をまだ観ていない方々にひと言お願いします。
天野:先ほども触れましたが、物語の主題は兄弟ですけれども、いろんな役が様々な葛藤を抱えて悩みながら生きているという話でもあり、人生って何だろう?と改めて感じさせられる作品なので、ぜひ皆さん観てみてください。
ありがとうございました。
■ 僕だけの青い空 (2019年 スロヴェニア) 作品データ
■ 監督 マルティン・ターク
■ 出演
クレメン:マティヤ・ヴァラント
ピーター:ティネ・ウグリン
ソニア:クララ・クーク
■ ストーリー
兄に憧れ、慕う 15 歳の少年の揺れ動く心もよう。10 代の儚さ、嫉妬、撞着…クレメンを包んでいた優しい世界は、兄ピーターの華麗なガールフレンド、ソニアの登場と共に急激な変容を遂げてゆく。
南欧の美しい自然と、少年の避けられない現実を繊細に描き出した青春ストーリー。
■ 日本語吹替版キャスト
クレメン 桜井 春香 /
ピーター 天野 冱惠 /
アルマ 岩元 絵美 /
ソニア 南澤 まお /
ヤナ 林 あゆり /
ミロ 石原 雅人 /
アンドレイ 近衛 頼忠 /
グレゴル 紅林 伽奈 /
マーク 犬丸 義貴 /
弁護士 小出 明 /
薬剤師 さきとう 薫 /
裁判官 武田 恵瑠々 /
ヤナの母 安達 菜都 /
店員 乙羽 美輝 /
少年 雪村 真以 /
バスケットボール部員 青柳 佑・幸野 央枝・吉岡 翔悟・北口 聖
■ 予告編 ( 吹替版 )
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